HR Intelligence Forum

人生100年時代に重要なUp-SkillとRe-Skill
- リンダ・グラットン教授 特別インタビュー -

ロンドン・ビジネス・スクールのリンダ・グラットン教授は、日本政府の「100年構想委員会」にも名を連ね、日本企業に対するアドバイスをされています。今回の「HR Intelligence Forum」では、基調講演の直後に個別インタビューの機会をいただきました。

聞き手はHRIntelligenceForum組織委員会の仲川薫が務めます。

仲川薫 経歴:株式会社リクルートジョブズ、株式会社リクルートキャリアの執行役員を経て2018年8月より株式会社リクルートコミュニケーションズ執行役員マーケティング局局長

図1

『LIFE SHIFT』に対する各国の反応と、Up-Skill/Re-Skillの重要性

仲川薫(以下「仲川」)
基調講演ではリンダさんのパワーがすごく伝わってきました。

リンダ・グラットン教授(以下「グラットン教授」)
私にとって大切にしているトピックを日本でお話することができて、とても嬉しいです。

仲川
日本は高齢化が課題だという反面、それを解決することができれば、課題解決の先進国になれると思っているので、最後におっしゃっていた「世界は日本を見ている」というメッセージに共感しました。

グラットン教授
日本を見ていると、今おっしゃっていたように、そうした課題の解決ができると考えています。安倍首相をはじめ、日本が政府レベルで「100年構想委員会」を作ったのも素晴らしいですね。高齢化社会だからではなく、現状をポジティブに捉えて世界に示すことができる日本は、本当に素晴らしいと思います。

仲川
リンダさんの著書『LIFE SHIFT』は、日本人にとても影響を与えた本の1つだと思います。日本と海外で「100年時代」や『LIFE SHIFT』に対する反応の違いはありますか?

グラットン教授
確かに皆さん、さまざまな見方をしていると思います。アメリカを例にとってみると、アメリカ人は日本人ほど貯蓄をしていない人が多く、いわゆるセーフティネットがあまりない社会です。『LIFE SHIFT』に書いたような話をした際、アメリカ人が最も心配するのは、自分の預金額で大丈夫だろうか? これから充分なお金があって、退職後も楽しんで生活できるのか?という点です。一方、ヨーロッパはアメリカよりセーフティネットが強いので、比較的将来の話をするのが好きな人が多い印象です。特にデンマークでは、政府主導で将来のための構想を持って、さまざまな施策を講じています。

仲川
リンダさんの『LIFE SHIFT』の考え方は、ホワイトカラーにフォーカスしたものですか? もしくは、どんな仕事に就く方でもシフトしていくほうが良いのでしょうか。

グラットン教授
私の新刊には、いわゆるブルーカラーに属するトラック運転手が登場します。彼はあるタイミングで、自分のスキルをもっと向上させるか(Up-Skill)、あるいは異なるスキルを自らトレーニング(Re-Skill)することになります。その際に自身の人生を振り返って、このままトラック運転手を続けるべきか、続けるなら今後どうやってスキルを向上させるか(Up-Skill)、もしくは新しいスキルを身に着け(Re-Skill)、全く違う仕事に就くかを選択しなければなりません。私たちもみんな登場人物の彼と同じ立場にあると言えます。自分の仕事について考えなければいけません。人生100年時代だからといって、選択肢はさほど多くないはずです。

仲川
100年構想委員会の中では、政府の役割について具体的なアドバイスをされているのですか?

グラットン教授
委員会そのものが、何を推奨したら良いかを審議で決定しています。これからの高齢化社会においては、ほとんどの国民が働く必要があります。そのために、政府は国民に対し、より多くのサポートをしていかなければなりません。特に子育て支援に関しては、日本は他国と比べて支援が手薄ということが非常に問題になっています。それを今後もっと改善し、女性が働きやすい社会を作っていかなければならないと、委員会では議論が交わされています。

女性リーダーはいつになったら登用されるのか

仲川
日本の企業と接する中で、私たち日本企業に聞いてみたいことはありますか?

グラットン教授
まず、若い人たちがもっと起業家精神を持つためにはどうすればいいでしょうか? 企業としてどうサポートしますか?

仲川
私たちの会社では、毎年新規事業提案制度があります。もともと企業文化としてアントレプレナーシップを大事にしております。また、制度だけでなく、通常の事業を運営していく中でも常に「新しいことを考え、イノベーションを起こそう」とマネージャーが言い続け、会社として奨励しています。

グラットン教授
素晴らしいですね!そして2つ目の質問は、女性マネージャーはいつになったら登用されるのか?です。私はWorld Economic Forum(世界経済フォーラム)の委員として、ジェンダー教育を担当しています。そこで各国の男女を比較する際の平等性を見ているのですが、いつも日本は全世界で最下位です。これは非常に恥ずかしいことだと思います。仲川さんが謝る必要はないですけど(笑)。

仲川
リクルートはダイバーシティを経営戦略に位置づけています。06年に専門部署を設置し、女性経営人材育成のためのリーダーシップ研修などを実施してきました。女性の管理職比率も年々増加しております。

グラットン教授
何人かのボードメンバーにお目にかかりました。とても良いことだと思います。

仲川
女性の登用についての壁を感じることはありますか?

グラットン教授
だいたいどの会社でも目にします。しかし非常にゆっくりではあるものの、徐々に変化しつつあります。私は、男性にもっと育児休暇を取らせるプロモーションをしたいと思っています。なぜ女性の昇進が遅れるかというと、やはり育児をしなければならないからです。だから男性もぜひ育休を取っていただき、女性が家でどのようなことをしているのかを知ってほしいと思っています。子育てにしても、家庭の仕事にしても、男性にもっと責任を持ってもらいたいのです。

仲川
人事の人たちに向けて、今日のカンファレンスのような機会を設けていますか?

グラットン教授
ロンドン・ビジネス・スクールでプログラムがあります。同校は人事に関するプログラムでは世界でトップです。年2回、全世界から有識者50人を集めて講義をしていただく機会があります。私自身も講義を受け持っており、約1週間のプログラムでずっと講義をしています。私が担当している「フューチャー・オブ・ワーク コンソーシアム」には日本から、富士通、日立、NEC、コクヨの4社が入っています。

HR業界でテクノロジー導入を推進するためにできること

仲川
HR業界では、まだまだテクノロジーの導入が進んでいません。そのため、私たちはテクノロジーを使って効率化をしたり、働き方を変えたりすることを推進していく目的で「HR Intelligence」をコンセプトに据えたカンファレンスを実施しています。今後もテクノロジーを利用し、かつデータを集めて分析することによって、もっと効率化できる取り組みをしていきたいと考えています。

グラットン教授
テクノロジーを導入する、実装することが、おそらく課題の中心点ではないかと思います。これまでの仕事や仕事環境の設計を変えるのはそんなに簡単なことではないでしょう。

仲川
HR業界でテクノロジー導入が進まないのはなぜでしょうか?

グラットン教授
テクノロジーに対するマインドセットや知識を、人事担当者たちが持っていないからだと思います。彼らの中にはテクノロジーをあまり知らない人も多く、テクノロジーを理解するためにすごく苦労されている印象があります。

仲川
どのようにしてその壁を越えれば良いと思いますか?

グラットン教授
スキルの向上(Up-Skill)が必要です。ティーチングが重要ですが、人は例から学ぶため、何か良い事例も必要でしょう。私が今やっている研究でも、できる限り多くの事例を含めるようにしています。

仲川
私たちも人事の方々に企業の良い事例を届けたく、このフォーラムを開催しています。

明日からできる2つのポイント

仲川
最後の質問です。半数以上の人が職を失い、今までより長く働かなければならない時代が到来しますが、それをポジティブに捉える必要があります。しかし、そう思ってはいるものの、なかなか一歩を踏み出せない人や、自分はまだ大丈夫なのではないかと思っている人たちも一定数いると思います。彼らのために、明日から何か1つやってみようと思えるヒントがあれば教えてください。

グラットン教授
それに対しては2つのポイントがあります。1つ目は、前もって将来を考えることです。「これから先、こんなことが起こるかもしれない」ということを、将来を見据えて考える。2つ目は、1つ目で考えたことに対して、今から革新的なアクションを起こしていくことです。自分の生活の中でいろいろと試してみることが重要です。

当然この2つのポイントを誰もができるとは限りません。だからこそ政府の支援が必要ですし、会社自体も「将来はこうなるかもしれない」という予測を人々に理解させる取り組みが必要なのです。

仲川
今日は大変示唆に富むお話を、ありがとうございました。

グラットン教授と仲川

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