HR Intelligence Forum

HR Techの現在と、今後どこへ向かうのか/ジョン・サムサー氏

スペシャルセッションは、HRに関する情報提供やリサーチを行うHR Examiner社の主席アナリスト ジョン・サムサー氏より、HR Techの現状と今後、について講演いただきました。

HR Techの今

HR Techには現在5つの大きな要素があります。

5 Elements of HRTech

この5つの要素に紐づくHRテクノロジーは、すでに市場にあるソフトウェアだけで75種類もの分野に細分化されます。人材獲得のソフトウェアだけでも10以上あり、非常に複雑な市場になっています。労務管理、人事管理、給与管理、リスクマネジメントなど、人事のコア機能だけでも複雑で、これらのソフトウェアへの投資は昨今大きく伸びています。

一方、欧米の労働市場に着目すると、複雑な変化が多様なソリューションの出現を後押しし、絶え間なく産業変革が起こっているのが現状です。これらの急激な変化により、新しいマネジメント・アプローチが必要になってきています。

現在欧米で課題になっているのは、転職者が多いことです。平均3年程度で転職するため、毎年1500万人の労働力が移動していることになります。多くのHRテクノロジーは、その大量の転職に対処するものです。

産業とテクノロジーの加速度的な変化

昨今、小売や輸送、製造業、ヘルスケアなど様々な分野の企業が、時代の急激な変化に追随する努力をしています。特に個人向けのテクノロジーの変化は加速度的に起こっており、SlackやFacebookなどは職場でも使われ、パフォーマンスマネジメントも個人からチーム評価に移りつつあります。

対象範囲の狭いツールが増え、多くの会社がソフトウェア間をつなぐAPI(Application Programming Interface)の構築に勤しんでいます。非常に速いスピードで変化が起こっているため、社内で何が起きているか知りたいというニーズが高まり、企業内での透明性も重視されつつあります。

これらのテクノロジーの加速度的な変化の背景には、システムの処理能力が増えたことと、Amazonやマイクロソフトなどが提供するほぼ無料で使用できるストレージの存在があります。そのような環境の中、従業員の仕事に対する満足度も変化しつつあります。一世代前と比べ、SNSやさまざまなツールの出現によって、従業員の持つ力も大きくなってきました。

セールスフォースの例をご紹介します。同社の本部はサンフランシスコで最も高いビルにあり、Fortune500の多くの会社が同ビル内に入居または、近隣にビルを借りています。

最近では、チームで何らかのプロジェクトを行う際、異なる会社のメンバーが集まることも増えてきました。例えば、朝8時にセールスフォース、オラクル、IBMの社員が1つのプロジェクトに参加するために集まり、ミーティングをします。また、午後から別プロジェクトのために集まった人たちは、最初のミーティングのメンバーと競合関係になることも少なくありません。

つまり、会社に対するロイヤリティから、個々のプロジェクトへのロイヤリティに移行しつつあるのです。報酬は所属会社から受け取りますが、仕事はプロジェクト単位。そしてチームメンバーのロイヤリティは、報酬を支払う会社ではなく、メンバー同士の信頼関係にあります。

ピープル・アナリティクスをベースにした市場の対応

産業やテクノロジーの劇的な変化、従業員のロイヤリティのあり方が変わりつつある中で、ピープル・アナリティクスをベースに、さまざまなソリューションが登場しています。以下はその一例です。

・バイアス軽減ツール
採用広告における表現のバイアスを軽減するもの。

・アセスメント
システムによって、それまで膨大な時間が必要だったパーソナリティ解析の時間・コストを圧縮し、従来よりも豊富な選択肢からの採用が可能に。

・動的労働市場の理解
需要と供給に依存せず、希望の採用条件に該当する人材が具体的にどこにいるか特定できる。

・単発の仕事を受発注する非正規労働者の管理ツール
人材獲得および労務管理を行う。

・HR Techエコシステム
小規模な人事組織が自社の価値やアイデアを活かすための手法。モジュラーツールを自社で作り、大きなエコシステムプロバイダとサインアップしていくことも可能。

・サイロブレンディング
縦割りの組織を融合することで、それまで別組織で同じ役割を担っていた人たちを統合できる。

・ネットワーク分析
ソーシャル測定ツール。組織内でどのように使われ、どう最適化するかを検討する。

・クラウドソーシング
採用の観点での役割が増加。

・動的な分類法
労働環境は刻々と変化するため、従業員が自分の労働環境に対し、どう感じているのかリアルタイムに把握することが重要。

ジョン・サムサー氏

次世代のHRテクノロジー導入に必要なステップ

私たちはこれまで、HRテクノロジーのソフトウェアを導入する際、どのような機能があるかを基準に購入判断をしていました。しかし昨今は、必要とされる機能はほとんどのソフトウェアで網羅されているため、機能だけでは差別化できません。

ソフトウェア開発各社は、よりリッチなソリューションを提供できるようなエコシステムを構築し始めました。APIを活用し、それらのソフトウェアをどのように関連づけるのか。各社がキュレーション的な視点を持つことで、それぞれの個性も見えてきました。その結果、人事のコア機能と同じくらい重要な、深いソリューションが提供できるようになったのです。

これからいくつかの例をご紹介します。

まずはUltimate Software社です。HRテクノロジーのマーケットで大きなシェアを持っている10億ドル規模の会社になります。この会社は社員を一番重視しています。つまり、社員の声こそが成功の基礎であるという考え方です。さまざまな知識の蓄積に基づき、いろいろな社員の感情を見ていきます。それをモニタリングしコミュニケーションを深めていくことで、マネジメントを変えていくのです。

同社はまた非常に豊かなエコシステムをパートナーと構築しています。社員の声を基礎としているかという根本的な原則に基づいて、全てのパートナーとアライアンスを組んでいるのです。こうした会社とビジネスをするのは素晴らしいことだと思いますよね。

それに対して、Workday社の成功はデータの一貫性とそれに基づくプランニングにあります。リビジョン管理がしっかりしているので、わざわざ元データに立ち返ったり、他の社員にシートの内容を聞いたりする必要がなくなりました。これにより、データに基づき、みんなが同意できるプランやアイディアの決定に注力できるようになったのです。

インターフェースとしてSlackを使おうがFacebookを使おうが構わず、インターフェースよりもバックエンドにあるデータに重きを置いています。これは他社とは少し違ったモデルの事例です。

Ascendify社というスタートアップは、採用からプロフィールマネジメントなど数多くのHR テクノロジーのツールを提供しています。その基礎となる理論は、何かを始める前に組織内の各人の能力をきちんと見極めることにあります。それにより、現在のチームの持つ能力や彼らに必要とされるトレーニング、採用すべき人材の基準まで分かるのです。

次にKEENCORP社です。社内・社員のトラブルがどこから発生するか、エンゲージメントのレベルでそれが分かるツールを作っています。リアルタイムでデジタルコミュニケーションを測定・分析することで、それぞれ個人のエンゲージメントを見ることが可能になります。時間ごと、日ごと、週ごとに組織がどんな結果を出しているかが分かるため、組織の中の問題が分かるようになるわけです。

昨今セクシュアルハラスメントが問題になっていますが、このツールをもってすると、セクハラもエンゲージメントスコアによって可視化することが可能になります。そうすると前もって「ここにセクシュアルハラスメントが起きているかもしれない」というレポートが届きます。

一方、Moovila社は、プロジェクトのパフォーマンスに基づいた面白いパフォーマンスマネジメントを提供しています。

例えば、その部門のベストパフォーマーは私で、しかし、その下で働いている部下は一番低い評価しかされないとします。なぜかというと、私がひどい仕事しか部下に押し付けていないからです。高い評価を得られる仕事を上司が独り占めしているというわけです。そうすると、部下は非常に不利な形で私の下で働くことになります。

こうしたことは現実に起こっていると思います。Moovila社のサービスは、達成すべき目標が明確、かつプロセスが見える、タスク管理が可能になります。そしてどこに責任があり、どのようなフローで仕事が行われているかを見ることができる。そうすると部下が本当に不利に扱われているという事態を見ることが可能になるのです。

Allstate社は、30のベンダーとともに、どこに新しいオフィスを開いたら一番採用ができるかが分かるツールです。「この労働市場だったらみんなでここの州に行こう」というような形で、オフィスの開設地を決定する際のサポートになります。

最後のケースは、私のお気に入りの事例、Guitar Center社の話です。ここでは離職率が問題でした。なぜ定着してくれないかを調べたところ、トレーニングが足りなかったことが判明しました。そこで、それを解消するためのシステムを構築しました。組織に人が入ってきた際、仕事内容が明確に分からない、そしてトレーニングの必要箇所も分からないという事態は、離職につながってしまうということになるのです。

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今後HRテクノロジーを導入する際は、ソリューション単体で選ぶより、どのようなエコシステムを構築しているのかに着目すると良いでしょう。ただし、欧米発のテクノロジーには、欧米ならではのバイアスがかかっている可能性が高く、必ずしも日本企業の問題を解決できるとは限りません。

そこでポイントになるのが、まず自社で解決すべき問題点を定義することです。問題が解決できないことをツールのせいにしても仕方ありません。次世代のHRテクノロジーを活用するためには、今から自社内のデータを棚卸しし、整理してまとめる必要があります。データの整備および組織のゴールが何なのかを明確にして初めて、次世代のテクノロジーを活用できる土台が整うのです。

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