HR Intelligence Forum

データとテクノロジーを活用して人事課題を解決する
- リクルートワークス研究所 大久保所長 -

リクルートワークス研究所 所長の大久保幸夫氏は、「データとテクノロジーを活用して人事課題を解決する」というタイトルで、講演をしました。 テクノロジーの観点からではなく、人事課題の観点からHRテクノロジーを考える「HR Intelligence」の概念と、各課題に対するHRテクノロジーの事例について紹介します。

大久保所長

HRテクノロジーの活用フェーズ

はじめにHRテクノロジーの活用フェーズについて、3つの観点からお話します。

まず、これまでの人事施策は、なぜそれを行うのか社員からは分かりづらいと言われてきました。それが最近は、その施策について説明責任が求められるようになりつつあります。このエビデンスベースの人事施策と、ビッグデータの活用は非常に密接に関係しています。人事として長年懸案だったことが、データ活用により解消するのです。

2つ目は労働集約的な業務からの脱却です。人事の方々からデータを取ったところ、人事本来の仕事をしている時間は業務時間のうち76.3%、周辺業務に割く時間が20.1%と、雑用の時間が2割もあります。この部分をテクノロジーによって無人化することで、労働時間は単純計算で2割削減できます。 さらに本来の人事業務の中にも、労働集約的な業務がたくさんあります。それらを効率化・無人化することは、他部門以上にニーズが強いのではと思います。

3つ目は戦略人事です。この言葉が一般的に使われるようになって20年ほど経ちますが、言葉だけが独り歩きし、「経営戦略を考えた人事」の実現は不十分だと感じています。昨今は中長期経営戦略を考える際、最初から必ず人事が入るという企業も増えてきました。経営戦略と同じように人事戦略を考えるというフレームを持つためには、テクノロジーやデータをフル活用していく必要があります。

ストーリー性を持ったHRテクノロジーの活用 = 「HR Intelligence」

ここれらの活用フェーズを踏まえ、私は昨年のフォーラムの場で「HR Intelligence」と言い始めました。HRテクノロジーではなく、HR Intelligenceです。 HR Intelligenceについて、私は以下のように定義しました。

「組織が戦略目標を達成するためにテクノロジーを駆使して、人・組織に関する様々なデータを収集・分析することにより、科学的な人材マネジメントを効率的に行う体系的なプロセス」

戦略目標には、生産性向上、イノベーションの促進、ダイバーシティ経営、働き方改革などさまざまな目標があります。その達成のために、IoTやロボティクス、AIなどのテクノロジーを駆使し、人事の持つパフォーマンス、キャリア、ヘルスケアなど、人・組織に関するさまざまなデータを収集・分析し、科学的な人材マネジメントを行います。これはアート(主観)、クラフト(経験)だけでなく、サイエンス(分析)を踏まえて効率的に行う体系的なプロセスです。課題の分析からシミュレーションし予測することに加え、さらに実際にPDCAを回す際のデータにも使うといった一貫したプロセスを作るのが、HR Intelligenceの発想です。

テクノロジーありきではなく、人事課題ありき。その課題解決の一部にテクノロジーを活用していくという発想でないと、HRテクノロジーの活用は上手くいきません。実際、AIを導入した企業は平均して労働時間が長くなっているというデータもあります。新しいテクノロジーを導入する際、これまでやっていたことを置き換えるのではなく、新しいことを付け加える形になっていることは多々あります。しかも、それをオペレーションに乗せるために手間がかかり、むしろ生産性を落とすという本末転倒のケースも少なくありません。

生産性向上のための人事施策フレーム

では、どうすればHR Intelligenceを実現できるのでしょうか。「生産性向上のための人事施策フレーム」という形で5つのポイントにまとめてみました。 前提にあるのが中長期的な人材不足です。マンパワーグループが世界43カ国、約4万社から取ったデータによると、前年と比べて採用が難しくなった会社の割合を国際比較したところ、日本はトップでした。今や日本は世界で最も採用が難しい国になっているのです。しかも今後さらに難しくなることは、さまざまなデータが示しています。 人材不足を背景に、かつ労働生産性を向上させる。その中心に体系的な人事施策をどのように据えるのかが問われているのです。

生産性向上のための人事施策フレーム

ご紹介する5項目は密接な関係性があり、生産性向上に対して優位な因果関係を持っています。これらは私たちリクルートワークス研究所が、東証一部上場企業を対象に実施した人事課題に関するアンケート調査(リクルートワークス研究所人材マネジメント調査 2018)の上位項目でもあります。これら5項目について、テクノロジーを駆使しながらどのように実施していくのかを考えることは、非常に有効なアプローチになるはずです。
※以下「課題認識」のパーセンテージは、上記アンケート内で「特に重要」と回答した企業の割合を指します。

A:採用力の強化
採用プロセスにおいて、世界で最も面接に依存しているのが日本です。面接のときの評価スコアは、1年後には成績との因果関係がなくなることが証明されています。将来活躍する人をどうやったら選考できるのかは、以前からの課題です。これをテクノロジーを使って解決できるのは、採用力の強化という意味で、非常に大きな意義があります。

【課題認識】
・新卒採用の強化 38.1%
・中途採用の強化 24.9%
・離職率の改善 16.8%

【HRテクノロジーの例】
例1)
AIを活用した音声およびビデオによるチャットbotが、候補者に自動で電話をかけて面接まで代行するプログラム。この導入により人事は最終面接のセットだけで済むようになり、採用スピードが劇的に上がります。ある会社では、これまで約1500人の採用面接を9週間かけてやっていたのが、9時間で終わるようになりました。

例2)
ITエンジニアが自身で開発したソースコードを公開し、他のエンジニアと協働作業するSNS。代表的なものにGitHubがあります。このSNS上ではエンジニアのスキルが可視化されているため、ここで採用を行うケースも増えてきました。これまでの採用は母集団を形成して選考する「待ち」の採用でしたが、今後は応募者以外を採用することも必要になってくるはずです。

例3)
求職者が従業員に質問を投稿するチャット用プラットフォームを作り、会社側も優秀な人材をそれらの対応にあてます。質問してくる求職者に「この会社の人たちは素晴らしい」と感じさせ、採用ブランドを構築するのが目的です。


B:ダイバーシティ経営
HRテクノロジーの多様なデータは、一人ひとりの能力を正しく見極めることに関して、非常に効力を発揮します。テクノロジーの活用により、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を飛び越え、ダイレクトに一人ひとりをアサインできるようになります。

【課題認識】
・女性活躍の推進 39.1%
・外国人の活用 9.6%
・定年退職者の再雇用・活用 16.2%

【HRテクノロジーの例】
例1)
選考に必要ない個人情報を隠して表示することで、アンコンシャスバイアスを取り除き、経験・能力のみで判断できるプログラム。

例2)
障害者がテレワークを行う/相互にサポートする/ジョブコーチからのサポートを受けることを全体管理するプログラム。これはリクルートグループも導入しています。障害者雇用に関しては法定雇用率が改定されたこともあり、今後しばらくは優れた障害者を雇用することに関して、競争が激化すると予想されます。

例3)
複数人がオンラインを交えて1つの職務を担うモザイク型就労プログラム。AIを活用し、スキル・時間・場所を最適に組み合わせることで、高齢者の就業を促進するもの。このようなジョブシェアリングを実現するプログラムも、多様な人たちを活用する意味で、今後重要になってくるHRテクノロジーの1つと考えられます。


C:働き方改革(+安全配慮)
安全配慮は、働き方改革のテーマの一環です。過労自殺やハラスメントなど、安全配慮という言葉で定義される範囲がどんどん広がっており、安全配慮義務違反の判例も厳しくなりつつあります。

【課題認識】
・ワークライフバランスの強化 28.4%
・労働時間短縮の取り組み 39.6%
・柔軟な働き方の推進 31.5%
・メンタルヘルスの対応 21.8%

【HRテクノロジーの例】
例1)
バイタルデータを取得し、従業員の健康管理や異常検知を行うプログラム。労働安全衛生法が改定され、2019年から従業員の労働時間の把握が義務化されることもあり、注目が集まっているテクノロジーの1つです。

例2)
オフタイムにVIPリストの上位人物以外の人からの電話やメールをブロックし、相手に自動応答で返信するプログラム。フランスでは2016年の法改正で、労働時間以外にメールなどに対応しなくていい権利を労使協議に含めることができるようになりました。

例3)
生産性の重要因子である「集中力」の計測を通じて、効果的な働き方改革を支援するプログラム。 メガネの製造・販売を手がけるジンズ社が、メガネに集中力を測るデバイスを付けた「JINS MEME」を開発したことで話題になりました。開発チームのリーダーがデータを取り続けた結果、オフィスにいる時間が最も集中していないことが判明したそうです。テレワークは本来、通勤時間削減のためではなく、自分が最も集中できる場所で集中すべき仕事をするためにあります。オフィスでは人とコミュニケーションする必要のある仕事をするなど、使い分けをすることで、生産性を上げることにもつながります。


D:マネジメント改革
マネジメントスキルについて、これまで体系的な取り組みは十分にされてこなかったため、マネージャーは自分が上司や先輩から受けたマネジメントを再現する人がほとんどでした。しかし、旧来のマネジメントは時代に合っているとは言い難く、全く違うシナリオが必要とされているのです。

新しいマネジメント、働き方改革への対応、多様な部下のマネジメントが求められるマネジャーは、仕事が過多になり潰れてしまうリスクもあります。 そこで登場したのがHRテクノロジーでマネージャー支援する領域です。

【課題】
・ ミドルマネジャーのマネジメントスキル向上 26.4%

【HRテクノロジー】
例1)
チームメンバーからのフィードバックを収集し、データに基づく示唆を与え、強いリーダーやマネジャーの育成をサポートするプログラム。

例2)
マネジャーの音声、身体の動き、位置情報を収集し、平均時間配分や、それぞれの部下とのコミュニケーション割合を分析するピープル・アナリティクス。マネジメントの時間配分や部下との対応について、マネジャーの自己認識と実態がかけ離れていることが多々あります。データに基づいた自分のマネジメント行動を振り返り、次に活かすという、多面観察と同様の効果をテクノロジーを使って実現するサービスも増えつつあります。

例3)
困った部下への対応など、部下マネジメントに関する悩みを、クラウド上で外部の専門家に相談するプログラム。匿名で相談メールを送ると、弁護士や医師、ファイナンシャルプランナー、ソーシャルワーカーなど外部の専門家たちがカンファレンスを開き、48時間以内に回答をメールしてくれる仕組みです。


E:プロフェッショナル人材育成
【課題】
・次世代リーダー育成 49.7%
・グローバルリーダー育成 26.4%
・OJTの強化、改善 12.2%
・イノベーション人材の発掘や育成 20.3%

【HRテクノロジー】
例1)
AR(拡張現実)技術を活用し、熟達者の技能を表示しOJTをサポートするプログラム。 ARのヘッドマウントディスプレイを着け、作業中にアドバイスが出てきたり、作業現場の映像をベテラン作業員と共有することで、その場でアドバイスを受けたりすることも可能です。

例2)
AIを使った音声認識により、英語を聞き取り、フィードバックを行う英語の個人学習プログラム。

例3)
社会人が学び直し、一般教養を身につける学習プログラム。学生時代の科目を学べるもので、リクルートマーケティングパートナーズが提供している「スタディサプリ」がそれに当たります。 次世代リーダーにとって一般教養は非常に大事だと考えています。教科書の最初から学び直すのは大変ですが、テクノロジーの活用によって、自分が興味のあるところ、分からなくなったところから始められるのが特徴です。

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ここまで、HRテクノロジーの話を人事課題から整理してきました。冒頭でも述べた通り、人事課題の観点から、どのようなテクノロジーを使えば良いのかを考えるのが非常に重要です。

人事は労働集約的な要素も多く、戦略人事への期待も大きい。さらに人材難という環境の変化にも直面しています。みなさんには、ぜひこれらの観点からHRテクノロジーに注目いただければと思います。我々も引き続き情報提供に努めていきます。

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