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個人と組織の関係の再構築と生産性向上への取組/経済産業省 能村幸輝氏

経済産業省産業人材政策室長 能村幸輝氏からは「個人と組織の関係の再構築と生産性向上への取組」と題したご講演をいただきました。個人と組織の関係を、いま一度どのように考えていくのか、その中で特に重要とされる生産性向上について、それぞれの現状や課題と、今後の方向性について解説いただきました。

能村幸輝氏

人口動態の変化と日本型雇用システムの3つの課題

VUCA(編注:Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の頭文字)や「人生100年時代」といわれる昨今、日本の企業を取り巻く環境はグローバル化やデジタライゼーションの波にさらされています。さらに人口減少、少子高齢化が進む中で、日本企業は経営の舵取りをしていかなければなりません。

一方、デジタルネイティブと呼ばれる新しい世代もどんどん生まれ、個人がどのようなキャリアを築いていくのか、企業と個人の関係を改めて見直すことが必要とされる時代に突入しています。

まず、前提となる社会構造の変化について。人口動態に関しては、2050年に日本の人口が減少に転じることはよく知られていますが、人口全体に占める生産年齢人口(15〜64歳)比率の減少も加速し、中長期的な人材不足が恒常化すると考えられています。

厚生労働省および国立社会保障・人口問題研究所は、2050年には100歳以上の高齢者が50万人を超えるとの見通しを発表しました。平均寿命に関して、男性は81.09歳、女性は87.26歳という平均寿命のデータがありますが、死亡数のピークでは男性は87歳、女性は93歳、3人に1人がそれぞれの年齢で亡くなっているという試算もあります。つまり65歳まで働いたとしても、男性であれば老後が約22年あることになります。ここで重要になるのが「健康寿命」です。健康を保ちながら働き続けることの必要性は、日に日に高まってきていると言えるでしょう。

一方、産業構造の変化に目を移すと、IoTやビッグデータ、人工知能(AI)などの新しい技術によって「第4次産業革命」が起こっていると言われており、就業構造にも変化が訪れると考えられています。雇用のボリュームゾーンだった従来型の仕事は、AIやロボットの出現によって大幅に減少する可能性が高いとされる一方、ビジネスプロセスの変化によって、データサイエンティストなど新たな雇用ニーズも生まれるでしょう。競争力と付加価値の源泉は、これまで産業や企業にありましたが、今後は「人」に移っていくと予想されています。必要とされるスキルや能力も非連続に変化していく中で、個人が学び続けることの重要性はますます高まっていきます。

その中で、「日本型雇用システム」が大きく変わろうとしています。これまでの日本型雇用システムには、大きく3つの課題がありました。

1つ目は長時間労働です。これを是正するために、リンダ・グラットン教授にも政府の会議にご出席いただき、多様な働き手が労働に参加できるよう2018年に「働き方改革関連法」が成立しました。

2つ目は、新卒一括採用・終身雇用・年功序列による人材の流動性の低さです。外国籍人材の雇用など、働き手の分母を増やす取り組みもされていますが、分子の生産性については、企業内外での労働移動を円滑化することで、人材の個別最適化が進むと考えられています。

3つ目は現場でのOJT依存です。企業の事情に特化した教育内容はIoT時代に通用しない可能性も多分にあります。企業が人材育成、人材への投資を強化することでエンゲージメントの向上を図ることができます。

これら3つの課題に対策を講じることで、個人と組織の関係は再構築され、ダイバーシティや生産性の向上につながっていきます。これらの取り組みが基本的な方向性になると考えています。

個人の就労形態の多様化と雇用コミュニティの変化

企業と個人がお互いに選び合う関係が生まれる中、経営は個人が能力を発揮できる環境を提供すべきです。それによって、資本市場や労働市場からも評価されるようになります。

個人も、労働市場を出たり入ったりし、学びながら仕事をして自分の能力を高めていく時代がやってきています。企業も新卒一括採用だけでなく、中途市場も含めた雇用の流動性を活用することで、自分たちの生産性を高めていきます。個人に注目すると、就労形態は多様化しています。リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2017」の個票データによると、正規雇用で転職回数0回の男性は、30代後半で42%、40代で38%、50代前半で36%と、1社で勤め上げる時代ではなくなりつつあることが見て取れます。

また、副業・兼業など多様な働き方を望む個人も増えつつあり、特にミレニアル世代の一部のハイパフォーマーが、兼業・副業に関心を持っています。今後ミドル層・シニア層が増えていく中で、ミレニアル世代以外の方々の選択肢を拡げるためにも、兼業や副業が非常に重要になってくるはずです。一方、副業の解禁に積極的な企業は2割程度にとどまっています。厚生労働省の労働政策審議会で、副業に関するルールの明確化について議論されていますが、本業への貢献を意識した上での兼業・副業の在り方は、ますます重要な考え方になっていくでしょう。

株式会社リクルートキャリア 就職みらい研究所の資料によると、働きたい組織の特徴として、人生100年時代の環境変化を見据え「どこの会社でも通用するスキル」を志向している若者が多数います。さらに将来への不安から、2018、2019年卒の若者の8割以上が安定志向という結果になりました。

このような環境下において、雇用コミュニティのあり方、個人と組織のあり方が変わってくることが予想されます。従来は新卒一括採用を基軸にした同質性の高いクローズドなコミュニティでした。内部公平性が重視され、昇進や昇給のペースやルールもある程度予測可能なため、バンド(等級)の管理も容易でした。

一方、今後求められる雇用コミュニティは、新卒一括採用以外にも、中途採用や再入社、リスキルなど多様性を重視しされ、外部競争力が求められるようになるはずです。内閣府のデータによると、離入職率と企業のパフォーマンス(=ROA)は、逆U字の関連になっています。「離職率1%未満で、非常にいい会社」と言われることもありますが、ダイバーシティやイノベーションを考える際、果たして1%が適切なのでしょうか。ある食品メーカーでは、離職率1%未満から3〜4%を目指して外部人材を取り入れていこうとしています。企業によって望ましい水準は異なりますが、これからの時代、離入職率1%であることが適切なのか否か、考えていく必要があります。

図1

個人と企業の関係性の再構築における今後の方向性

では、個人と企業の関係の再構築を考える際、今後どのような方向に進むのでしょうか。従来の関係性は、人事・組織主導でした。会社の成長があり、個人は就「社」というメンバーシップ型のコミュニティがあり、ジョブローテーションを前提とした長期の依存関係がありました。会社という「枠」の中で、入社年次やバンド管理がしやすいのが特徴でした。

まず、今後求められる関係性では、会社だけでなく個人の成長も重要になります。自身のキャリアやスキルへの関心が高まり、依存ではなく自律が重視されます。会社や仕事は「枠」ではなく個人の「軸」になり、その軸を中心に多様な選択肢をもった組織になっていくでしょう。

そのためには、企業が「個」を最適化し、個人の能力を発揮できる仕組みが必要になります。人事の役割は非常に大きく、特にどこをサポートしていくか考える際、今後はミドルマネージャーの役割が非常に重要になっていくはずです。現状、ミドルマネージャーへのサポートが不足しているため、データの利活用やHRテクノロジーの活用が有効になるでしょう。

2つ目に挙げるのは、経営課題や経営戦略に応じて、組織をリードしていくポジションが必要になることです。一部の企業ではすでにCHOやCHROなど、人事部のトップではなく経営者の1人として、組織や個人のパフォーマンスを最大化できる人材を配置しています。

人材の個別最適化には、データの利活用が鍵になります。例えば、自己申告・一律管理だった労務管理が、ウェアラブルやアプリを活用することで、個人に応じた労務・健康管理ができるようになります。人事管理/人材運用も、人事データをクラウドで管理し、AI等が最適な配属・運用を提示してくれるようになるでしょう。

ここで重要なのが、いきなり全てのデータをつながないことです。成果が出るか分からない中、最初から全てのデータをつなごうとして足踏みしてしまうのでは意味がありません。鍵になるのは「アジリティ(経営や組織運営のあり方における機敏性)」です。まずはできるところからデータ連携を進め、トライ&エラーで実践していくことが必要です。さまざまな企業の人事部長やCHO、CHROの方々とディスカッションをする際によく伺うのは、データ利活用の先にある経験や勘のようなものも重要だということです。データと人事のみなさんの経験や勘をしっかり組み合わせることで、人事と現場の生産性は向上していくはずです。

3つ目は、個人と企業が向かい合っていくことです。企業は適材適所の人事配置や、個人のキャリア自律に対する支援を行います。個人と企業の成長ベクトルを合わせることで、企業の生産性を向上させ、個人は主体性やモチベーションを向上させることができます。

これだけ変化の激しい、不確実性の高い時代においては、企業内にとどまらないオープンイノベーションが重要になります。いかに社外のリソースを取り込むかについては、民間企業ではKaggleの事例があります。匿名化したビッグデータを企業が使って課題と懸賞金を設定し、データサイエンティストがコンテスト形式で分析モデルの精度を競い合う場も出てきました。

この取り組みによって、企業は精度の高い分析モデルを獲得でき、かつ今まで出会えなかった分野の優秀な人材を発掘できます。また、個人の側も懸賞金を獲得するだけでなく、実力を示すことで新たなキャリアを得られる可能性もあります。何より企業のリアルデータを分析する機会は貴重なので、経済産業省が同様のコンテストを開催した際には、参加したAI研究者・エンジニア1万2000人のうち、約1000人は外国籍の人材という結果になりました。企業外の人材をどう取り込み、活用していくかは、今後ますます重要になっていくでしょう。

一方、企業内の人材活用を考える際、新興国企業への「留職」や、ベンチャー企業への「レンタル移籍」など、従業員に新たな学びの機会を提供する企業も出てきました。経済産業省でも、2018年よりベンチャー出向の取り組みをスタートさせました。また、年4回の中途採用も実施し、組織内の人材流動性を高める動きを取っています。

人生100年時代を生き抜くためには、業界の特性に応じた専門性と、キャリアのベースになる基礎的なスキルの両方を学び続けることが必要です。同時に、全く新しい分野にもトライしていくことが求められるはずです。それを政府や企業がどのようにサポートしていくのか、今後の重要な鍵になってくるでしょう。

重要なのは、人材戦略=経営戦略そのものという認識を持つことです。企業の競争力・付加価値の源泉は「人」です。人材にフォーカスした取り組みをどう進めていくのか。その中でデータの利活用をどうしていくのか。それを踏まえた上で、企業と働く人の関係性の再構築が求められる時代になってきています。

人生100年時代の先進国である日本で、生涯現役社会の実現のためにも、今後さまざまな企業のみなさんと連携していければと考えています。

本日はありがとうございました。

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