HR Intelligence Forum

未来を見据えたハイパフォーマンス企業の構築/リンダ・グラットン氏

HR Intelligence Forumは、ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授のキーノートセッションからスタートしました。講演タイトルは「Building a Future Proofed, High Performance Company」。ハイパフォーマンスな会社を作るために必要な3つの提案と、その背景にある変化について、事例を交えながらご講演いただきました。

図1

技術革新によって、全ての人の仕事は変わる

私たちの仕事は今、テクノロジーによって変化しつつあります。日本は世界トップレベルの技術大国です。国全体がロボットを使うことに抵抗がなくなりつつあるのは、世界でも例がありません。これは日本にとって非常に優位な点です。技術革新による変化に不安を覚える人もいますが、私たち一人ひとりがマイナスの影響を受けているわけではありません。技術革新は変化をもたらし、それによって私たちの仕事の仕方も変化していくのです。

マサチューセッツ工科大学の同僚が、これらの変化がどのように起こるかを説明しています。彼によると、私たちのやっている仕事は30程度のタスクに分かれており、それらを組み合わせているそうです。

タスクは大きくルーティーンと、そうではないものに分かれます。ルーティンのタスクはロボットで代替可能なものが多く、例えばAmazonの倉庫ではロボットが商品をピックアップしています。多くのロボットがいて、移民の少ない日本の労働市場は、ロボットの導入において世界の先端を走っているといえます。

さらに今後は医療診断など非ルーティンの仕事も、AIなどテクノロジーの影響を受けることが予想されます。ルーティン/非ルーティンかに関わらず、全ての仕事が変わっていくと言っても良いかもしれません。

これらの変化について人事の観点で非常に重要なのは、多くのタスクや仕事が消えていく中で、新しい仕事が生まれつつあるという点です。デジタルマーケティングスペシャリスト、アプリデザイナー、ビッグデータアナリストなど、デジタル関係の仕事がほとんどですが、中には「チーフリスニングオフィサー」など、どんな仕事か分からないものもあります。新しい仕事には、新しいスキルが必要です。企業や個人において、新しいスキルを身につける必然性が上がるため、生涯学習が非常に重要になってきます。

世界経済フォーラムでは、ヒューマンスキルの例として「Emotion Intelligence」「Creativity」「Active Listening」「Critical Thinking」などが挙げられました。人事が仕事を設計していく際、ロボットを起点に考えるのではなく「人間だからこそできることは何か?」に焦点を当てなければなりません。

日本が世界の模範になるために、人生100年時代をどう過ごすか

さまざまな調査結果から、世界の6割の従業員が、今の自分の仕事がなくなるのではないかなど、将来の仕事に不安を持っています。これは非常に由々しき事態です。なぜなら、ヒューマンスキルを発揮するためには「リラックスした脳」が必要だからです。もし不安や心配が大きければ、脳はサバイバルモードになってしまいます。テクノロジーは私たちの世界を変え、どんどん不安を掻き立てています。人事のプロとしてみなさんは、従業員が健全な生活ができ、不安を軽減できるよう助けていく必要があります。このことは、私が今日お話したいポイントの1つです。

日本人の平均寿命は非常に長いため、みなさんがこれから長寿の人たちをどのように導いていくかによって、世界をリードする可能性があります。1年半前から私は何度か東京に来て、文部科学省の大臣が出席される会議に同席し、高齢者と一緒に仕事をしていくために日本はどうすれば良いかを考えてきました。また、その知識を使って世界を助けるには、どうしていけば良いか検討を重ねてきました。安倍首相は2018年6月、G20のリーダーを東京に招き、健康的な生き方、ヘルシーに年をとることについてミーティングも行いました。

日本は世界で最も平均寿命が長いだけでなく、人口における高齢者の割合も最も高く、全世界が日本の動きに注目しています。現在では日本独特の傾向ですが、今後は他の国でも高齢者はどんどん増えていきます。人事、あるいは企業として、全世界の模範となるにはどうすれば良いか考えるべきです。私の著書『LIFE SHIFT』に書いたように、人生100年時代と言われるようになりました。私も70〜80歳くらいまで、仕事をすると決めました。日本は高齢者の方々の生産性を高め、経済に対して利点をもたらしていくことが必要です。

マルチステージを生きるために知っておくべき家族と社会構成の変化

70〜80歳まで仕事をするのであれば、従来の3ステージで構成された人生、つまりフルタイムの教育、仕事、老後で構成された人生を享受するのは難しいでしょう。今後私たちは、異なったことを異なった人生のステージで行っていく、マルチステージを生きるのだと認識することが重要です。

中でも教育は生涯に渡って続きます。例えば50歳になって大学に戻っても良いですし、70歳になってから何か新しいプログラムを取って勉強を始めるのも良いでしょう。あるいは高校卒業後、大学に入るまでにギャップイヤーを持つのも良いかもしれません。老後を考えて、自分の人生の前半に「人生の休暇時間」を持っても良いのではないかと思います。

若者たちにマルチステージの人生を営んでもらうには、どうすれば良いのでしょうか。ここでポイントになるのが、家族構成と社会構成が変わってきているという点です。

私は1955年生まれで、父がフルタイムで働き、母が子どもを育てるという家庭で育ちましたが、今や日本を含め世界中でこのような形態の家族は非常に減っています。なぜなら女性が学歴を持ち、働き始めたからです。女性が教育を受け、仕事を持つと、子どもの数は減ります。子どもが少なくなると、高齢化社会が進みます。これは日本だけの現象ではありません。

今後は男女ともに同レベルの教育を受けた場合、同じような水準の仕事に就き、同じような収入を得る可能性があります。従来の家族では、女性は男性と同等のキャリアを持っていませんでしたが、今後MBAを目指すような女性の家族はダブルインカムになるわけです。それは女性にとっても、家族から見ても、素晴らしいことです。企業は彼女らの意思を尊重しなければなりません。みなさんは、変わりつつある家族と社会構成を理解し、若者たちが何を欲しているのか理解する必要があります。

図2

ハイパフォーマンスな企業を作る3つの提案

技術革新によって仕事も企業も変わっているということは、ハイパフォーマンスの定義も変わっているはずです。今や人々は70〜80歳まで働く時代になり、パートナーシップの在り方も変わってきています。そのような環境下で、私たちはどうやってハイパフォーマンスの組織を作れば良いのでしょうか。

本当の意味でハイパフォーマンスな企業や組織を作るために、私から3つの提案をしたいと思います。

1) Fostering continuous learning(継続的学習の促進)
まず一番大事なのは、生涯学習の機会を与えることです。シンガポールでは国民一人ひとりに対して、毎年自分の教育に使える予算が拠出されています。日本でもみなさんのような企業の方々が、生涯学習をサポートすることは可能です。それにはさほど多額なお金が必要ではありません。

もう一つ、日本にとって特に重要なのが健康な歳の重ね方とバイタリティです。アメリカでは肥満が大きな問題になっていますが、日本人の健康寿命が長いのは素晴らしい資産です。しかし、日本には長時間労働を余儀なくされる文化があることで世界中に知られています。長時間労働が続くと、従業員一人ひとりのバイタリティが下がります。長時間労働によって若者が退職する可能性も高まるので、日本企業はこの問題を何とかしなければなりません。

クリエイティビティを解き放つために、何をしたら良いか考えてみてください。ロボットとは違い、人間にはヒューマンスキル、クリエイティビティ、他人を思いやるエンパシーがあります。それは適度な休憩、そしてクリエイティビティを解き放つ空間と時間がなければできないのです。

2)Enabling agility(アジリティの実現)
今、新しい技術革新の時代を迎えて多くのチャンスがあります。人々は自分のスキルをグレードアップし、より良い仕事ができるようになったり、新たなスキルを身に着けて、全く違う仕事に就いたりできるようになりました。自分を適応させるようなアジリティ(状況に応じて的確に素早く行動できる機敏性)が必要とされています。

競争社会の中で企業が競争力を持つには、ハイパフォーマンスな組織であることが必要です。人はアジャイルな仕事人生を欲しています。今いる会社から別の会社に移るために、新しいスキルを学びたい欲求を持っています。企業として予算を確保し、リソースと時間を割いて従業員がスキルアップ、または別のスキルを身につけられるよう導いていくことが非常に重要です。フレキシブルにスキルを身につけられる環境は、従業員にとっても重要だからです。

3)Creating a growth mindset(成長志向のマインドセットをつくり出す)
3つ目は私の観点を述べたいと思います。成長志向のマインドセットは、非常にポピュラーな概念で、現在アメリカで流行っている考え方でもあります。これは自分には何らかの潜在能力があり、スキルをどんどん成長させることができる、つまり自分には成長の余地があるという気持ちを持つことを意味します。パフォーマンスを上げる上では、このマインドセットが重要です。

個人を見ていると、ときどき私たちは「これはもうダメだ」と切り捨ててしまうことがあると思います。インドのムンバイにあるスラムの子どもたちに、「自分たちは成長できる」「大人になったら何かすごいものになれる」と教えているプロジェクトがあります。小さな子どもたちに、自分には成長の余地がある、潜在能力があることに気づいてもらう。だから彼らは人を切り捨てることはしません。潜在能力を否定するのではなく、誰にでも成長するチャンスを与えることが重要なのです。

今日は貴重な機会をありがとうございました。

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■リンダ・グラットンQAセッション:

講演に続き、会場からの質問に答えるQAセッションが行われました。モデレーターは、リクルートスタッフィング代表取締役社長・柏村美生が務めます。(※肩書は2018年12月時点の情報です)

柏村
最初の質問ですが、先ほどプレゼンテーションいただいたように、非常に変化が早く、そして働く側のニーズや価値観が多様化していく中で、企業の人事部がどのような役割を担うべきかお伺いできますか。

グラットン教授
HR部門は、将来の仕事についてもっと話をするべきだと思っています。実際には別のユニットや、あるいはもっと大きな1つのHRのグループが担っている企業もあるかもしれませんが、非常に重要なのは、先ほど私がお話ししたトレンドです。

まず、私が気づいたことは、全世界のCEOも、将来の仕事の仕方に非常に興味を持っているということです。ダボスの世界経済フォーラムにおいても、将来に関するストーリーをCEOが作り上げていくことが必要だと言っていました。マイクロソフトのCEOもGrowth Mindsetが非常に重要だと述べています。

HR部門にとっての大きな課題は、あまりにも取り組むべき事柄が多いことです。先ほどお話しした3つに焦点を絞り、その中で変化をもたらすことができそうなことに集中し、とにかく実験をしてください。予測はできません。実験をしてはじめて、会社にとってそれが上手くいくかどうかが分かります。イギリスのブリティッシュ・テレコムは、フレキシブルワークを初めて採用しました。でもその前に必ず実験をしていました。実験というプロセスが人事部の機能として重要な一部になっていかなくてはなりません。

会場
特に日本の場合「他の人と違うことをする」ことに抵抗を持つ人が多くいると思うのですが、どのように組織・人を変えればいいのか、何かヒントはありますか。

グラットン教授
一緒に和をもって働くこと、お互いの声を聴き合うこと、これは日本の成功をサポートしてきた日本人の能力です。これはそのままでいいと思います。ただそれと同時に分かっていただきたいのは、「世界が変わっている」ということです。そのため、みなさんの振る舞いも変わらなければなりません。では振る舞いを変化させるとはどういうことか。2つあると思います。

1つは、シニアエグゼクティブの役割が重要です。その人たちの振る舞いを下の者が見ているからです。ですから、どういった振る舞いが必要なのか、リーダーに気づかせてください。他の人たちがコピーすべき模範となってください。例えばアメリカでは、子どもを将来イクメンにさせるため、お父さんが会社を休むようになってきたのですが、これは良いアイデアだと受け容れられ始めています。ほとんどの会社は、シニアの人がまずそれを始めないと下の人はできない。上の人から模範になるということです。

2つ目は、周りのコンテクストが重要ということです。例えば建物のレイアウト、仕事の慣習、やり方によって、みんなのマインドセットが変わっていきます。何社かの間でオープンプランのオフィスを作った会社の話をちょうど昨日耳にしました。いつも会わない人どうしが会い、顔と顔を合わせたり、自分の机がいろんなところに移動できたりするわけです。そうすると、みんなの働き方も変わり、心構えも変わってきます。オフィススペースのレイアウトですら、仕事をする人の振る舞いに影響を与え、マインドセットが変わってくるのです。

会場
リンダさんの目から見て、ここはいい会社だという日本の会社があれば教えてください。もしなければ、アジアで事例があれば教えていただければと思います。

グラットン教授
インドの事例をご紹介します。TCS(タタ・コンサルタンシー・サービシズ)という、40万人が働くコンサルティングサービスの会社ですが、ここでは「NO ME」というプラットフォームを使っています。これは誰もが誰とでもコミュニケーションできるプラットフォームです。もう1つは韓国LGの事例です。LGは非常に野心があり、どんどん国際化していきました。彼らはグローバルカンパニーを作りたい、そのためには世界を理解する必要があると言っていました。そこで、エグゼクティブに対し、全世界を回り、韓国以外の国々を学ぶ1年間の休暇制度ができました。言語を学び、多様な文化を敏感に感じ取ることのできる会社を作ることは、コンシューマー製品を作っている会社にとって大いに意味のあることです。

アジアの会社で、リーダーがこのような素晴らしい会社を作っていく。そしてこれはリーダーたちが、この業界の未来を変えることができたという1つの素晴らしい事例だと思います。

会場
今、お話の出たインド・TCSの日本支社の日本TCSで人事責任者をやっております。ご紹介いただきありがとうございます、偶然ですが(笑)。最近はテクノロジーとヒューマンの融合を当社のビジネスモデルとしております。今後機械やAIなどがさらに進出してくるかと思いますが、その中で人はどのような役割を担っていくべきでしょうか。

グラットン教授
ヒューマン・マシン・インターフェースと呼ばれていることですよね。これは私たちが今直面している大きな問題の1つだと思います。まず申し上げたいことは、機械が得意なデータ分析などがあるとしたら、そこでの人間の役割は何かということになりますが、3つあります。

まずは「ケアリング」、世話をすること。日本でも高齢の方々が多いです。ロボットも介護をしていますが、そういった介護の仕事が人間にもまだあります。2つ目はクリエイティビティです。機械はクリエイティビティに関しては、人間に匹敵しません。3つ目は、機械がこれからを予測できないということです。つまり、直感的な形でデータを分かるのが人間です。それは人間の脳が高度だからできることです。

いくつかのタスクは機械で100%置き換えることが可能です。そして、人間と機械が一緒になるところでは、機械が行っていることをもっと拡大、拡充できるスキルを持った人間でなければなりません。仕事の設計をするときには、クリエイティブでいろいろな仮定をもって、将来を考えることができる高度な人間が必要です。

柏村
ありがとうございます。最後にこれからの日本企業の労働市場を担っていくリーダーたちにメッセージをいただいて、締めくくりたいと思います。

グラットン教授
世界は皆さんを見ています。日本がこれからの高齢化社会の中で高齢者がどのように活躍できるようになるか。また、日本が技術を使って高齢者をサポートし、60歳を過ぎたら定年というステレオタイプが、どれだけ変わっていくのか。コミュニティがどう変わり、ヘルシーエイジングという形で健康に歳をとっていくことができるのか。日本は世界にそれを示すことができます。本日は、ありがとうございました。

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