HR Intelligence Forum

HR Intelligence Forum

HR Intelligenceとは「組織が戦略目標を達成するために、人・組織に関する様々なデータを収集・分析することにより、科学的なマネジメントを効率的に行う体系的なプロセス」※です。2017年より開催しているHR Intelligence Forumは、HR Intelligenceを通じて、企業の戦略目標である生産性の向上やイノベーションの推進、ダイバーシティ経営、働き方改革を企業の皆様とともに実現していくための情報やネットワーク構築のための場を提供いたします。最新の事例やナレッジを共有、議論することで、企業の枠組みを超えた共創の実現を目指します。

※HR Intelligence Forum 2017より(https://logmi.jp/236926

HR Intelligence Forum
-Showcase Conference-

HRテクノロジーの最新動向

岩本教授署名
慶應義塾大学大学院経営管理研究科
特任教授

イベントに寄せて
 HR Intelligenceの仕組みを実現するにはデータ駆動型でHRをとらえることが必須となります。そして、HRをデータ駆動型にするための新たなテクノロジーは、世界中で急速度で進化しており、最先端のテクノロジーを活用してHR Intelligenceの仕組みを構築することは、企業の競争力を高める上で重要となるでしょう。

1.HRテクノロジー市場成長の推移

 世界は現在第四次産業革命の真っ最中であり、あらゆる領域でIoT(Internet of Things)、ビッグデータ、AI(Artificial Intelligence:人工知能)、ロボットなどの新たなテクノロジーが活用され、FinTech、HealthTech、EdTechなど、xTech(クロステック)と呼ばれるテクノロジーを掛け合わせた新たなビジネスがさまざまな領域で生まれ、成長している。HR(Human Resources:人的資源)の領域も例外ではなく、HRとテクノロジーとを掛け合わせた「HRテクノロジー」の市場が急成長している。
 米国の商標を調べてみると、「HR TECH」という言葉が1998年に商標登録されており(「HR TECH」の商標権は、現在は破棄されている)、「HR TECHNOLOGY」という言葉が2000年に商標登録されている。つまり、米国などの海外では、HRテクノロジーという言葉は2000年前後から使われている。HR TECHNOLOGYの商標権を米国で保有するLRP Publicationsは、「HR Technology Conference & Expo」というイベントを毎年開催しており、2018年で21回目を迎えた。
 米国では、1980年代以降、HRテクノロジーのスタートアップが多く出てくるようになった。図表1に米国の大きく成長した主なHRテクノロジースタートアップを示す。2005年にオラクルがピープルソフトを買収したのを皮切りに、SAP、IBM、マイクロソフト、リクルートホールディングスなどの大手ITベンダー、人材サービスベンダーなどがHRテクノロジー市場に参入するようになった。

図1

 図表2にHRテクノロジースタートアップの案件数および投資額の推移を示すが、HRテクノロジー市場に参入するスタートアップも、2010年代に入ってから急増しており、HRテクノロジー市場はグローバル大手企業とスタートアップとが共存しながら成長している。

図表2.HRテクノロジースタートアップの案件数および投資額の推移(出典:CB Insights)
図表2

 一方、日本国内で「HRテクノロジー」という言葉が使われ始めたのは米国に遅れること約15年後の2015年である。2015年3月27日に、株式会社groovesが、「HRTech」を商標登録し、「HRTech(HRテック)」という言葉を使い始めた。「HRテクノロジー」は2015年4月24日に、慶應義塾大学が主催で「HR Technology Symposium」を開催した際に使われたのが最初である[1]。
 2016年10月に、日本で初めてのHRテクノロジーに関するイベント「HRテクノロジーサミット」がProFuture株式会社によって開催され、同時に、「HRテクノロジー大賞」実行委員会により「HRテクノロジー大賞」が創設され、この頃から「HRテクノロジー」という言葉が日本国内で一気に認知されることになった。2017年2月には経済産業省産業構造審議会新産業構造部会でHRテクノロジーについて議論がなされ、世耕経済産業大臣も働き方改革実行のためのHRテクノロジーの活用の重要性について経済界に発信するようになった。以下に2017年3月29日に開催された日本経済新聞社主催シンポジウム「ALL JAPAN労働生産性改革プロジェクト」における世耕大臣のコメントを記す[2]。

“政府の働き方改革実現会議において、時間外労働の上限規制や同一労働同一賃金の導入など、働き方改革の実行計画が決まった。今後はこの実行計画を生産性の向上と経済成長へとつなげていく段階になる。フリーランスや副業等も含めた多様で柔軟な働き方、技術進化にマッチした人材投資の拡充、そしてHRテクノロジーを活用した働き方改革に取り組んでほしい。
 政府も産業政策、労働雇用政策にとどまらず、教育、人材育成、社会保障政策など、さまざまな政策を総動員したトータルな改革パッケージが必要と考えており、官民を挙げて実現の道筋を考えていく。“

2.日本国内のHRテクノロジー事例

 図表3にHRテクノロジーユーザー側のHRテクノロジー大賞第1回~第3回の受賞企業を示す。HRテクノロジー大賞では、大賞、イノベーション賞に加え、採用、ラーニング、統合マネジメント、管理システム、業務変革、労務・福利厚生の部門優秀賞も設置しており、人事・人材マネジメントのさまざまな領域でHRテクノロジーが活用されている。
HRテクノロジーのアプリケーションメーカーは、この数年で急速に増加している。図表4に2018年10月1日時点のHRテクノロジー業界カオスマップを示すが、この時点で既に8つのカテゴリーで299のアプリケーションが市場に出ている。

図表3.HRテクノロジー大賞受賞企業
図表3

図表4.HRテクノロジー業界カオスマップ(2018年10月1日時点) (出典:HRTechナビ)
図表4

3.HRテクノロジーの今後

 働き方改革が安倍内閣の看板政策になっており、政策の動向がHRテクノロジー市場に大きな影響を与えることが予測される。2018年10月2日に第4次安倍改造内閣が成立し、内閣官房日本経済再生本部の未来投資会議においてこれからの日本の成長戦略の検討が始まった。検討の柱は以下の3点である[3]。

① SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に向けたSociety 5.0の実現(第四次産業革命)
AIやIoT、センサー、ロボット、ビッグデータといった第四次産業革命がもたらす技術革新は、私たちの生活や経済社会を画期的に変えようとしている。技術革新を現場に積極的に取り入れ、労働生産性の向上を図る。このため、国民一人ひとりの視点に立って、ゴールイメージの共有化を図り、国民一人ひとり生活を目に見える形で豊かにする。

② 全世代型社会保障への改革
生涯現役社会の実現に向けて、意欲ある高齢者に働く場を準備する。併せて、新卒一括採用の見直しや中途採用の拡大、労働移動の円滑化といった雇用制度の改革について検討を開始する。また、人生百年時代をさらに進化させ、寿命と健康寿命の差を限りなく縮めることを目指す。現役時代から自らの健康状態を把握し、主体的に健康維持や疾病・介護予防に取り組み、現役であり続けることができる仕組みを検討する。

③ 地方施策の強化
 地方経済は、急速に進む人口減少を背景に大幅な需要減少や技術革新の停滞といった経済社会構造の変化に直面。地域にとって不可欠な基盤的サービスの確保が困難になりつつある中で、地方基盤企業の統合・強化・生産性向上や、各地方の中枢・中核都市の機能強化、一極集中是正等を検討する。また、農林水産業や観光産業の成長産業化を図る。

 雇用制度改革としては以下の2点について検討が始められている[4]。

    ① 高齢者雇用の促進
  • 65歳以上への継続雇用年齢の引上げに向けた検討
  • 高齢者未採用企業への雇用拡大策
  • AI・ロボット等も用いた職場環境整備
    ② 中途採用の拡大
  • 中途採用協議会による総理ヘッドの運動展開
  • 職務の明確化とそれに基づく公正な評価・報酬制度の導入拡大
  • 40歳でのセカンドキャリア構築支援
  • 大企業人材の地方中小企業での活用

 これらの制度改革を促進するにはHRテクノロジーの活用は不可欠であり、政策の議論が進むとともにHRテクノロジー市場の成長も期待される。
 また、HRテクノロジーに活用できる新たなテクノロジーもまだまだ出てくる。図表5にxTechの例を示すが、さまざまなxTechで新たなテクノロジーが開発されており、他のxTechで開発されたテクノロジーがHRテクノロジーに応用されることも多い。SportTechのテクノロジーがHRテクノロジーに応用されていることは以前から知られているが、他にも、例えば、FinTechで開発されたブロックチェーンの技術をHRテクノロジーにどう応用するかは世界中で検討されている。また最近では、生体情報をHRテクノロジーに活用する事例も増えており、例えば、BrainTechやNeuroTechのテクノロジーがHRテクノロジーに応用され始めている。
また、健康経営®(「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です)の広がりとともに、従業員の健康管理が人事・人材マネジメントの重要な役割となってきており、HealthTechとHRTechの連携なども進んでいる。

図表5.xTechの例
図表5

    【参考文献】
  1. 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マナジメント研究科、「Human Resource Technology Symposium」開催、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科ホームページ、2015年
  2. 経済産業省産業人材政策室、「働き方改革 第2章」と「人生100年時代」における人づくり革命について、経済産業省資料、2017年
  3. 内閣官房日本経済再生総合事務局、成長戦略の方向性(案)、内閣官房ホームページ、2018年
  4. 経済産業省、生涯現役社会の実現に向けた雇用・社会保障の一体改革、内閣官房ホームページ、2018年

 
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